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〈第一章・35〉
『分かった。それじゃあ、君が一晩寝て、もう一晩が過ぎる前までに、何とかアテを探してみよう。おそらく、もう二度と会えなくなるだろうから、お父さんや、お友達とお別れを済ませておくんだよ』
父親……。
おとんが私と別れて悲しむなんて想像もつきません。
友達は……。
私には友達などと呼べるひとは、おりませんでした。
『待たせてしまってすまなかった』
『いいえ、たった今来たばかり』
『思ったより、あそこへ連れて行くには手続きがいるようだ。それに君はまだあまりにも幼い。しばらくの間、本当に私の屋敷へ奉公してもらって様子を見よう。なに、奉公といったってきつい勤めなんかさせないさ。君に一流の教育をつけてあげよう、話はそれからだ。さあおいで、約束通り君を攫 っていくよ』
長いこと座りっぱなしでございましたから、足元が危うくなっておりました。
あのひとに言われて、ふらふらと教会を出ました。
空はもう真っ暗でございます。
外灯などございません。
その辺りでは治安が良くないと有名な、うらぶれた界隈でございました。
――あの夜は……。
お月さまが、とても美しゅうございました。
丸くて、大きくって。とっても明るいお月さまでごさいました。
私はお日さまより、お月さまが好き。
それから……。
手を引かれて、あのひとのピカピカの自家用車に乗せていただきました。
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