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〈第一章・34〉
『また窓を開けて寝ていたんだね。危ないよ。君は綺麗な娘なのだから、気をつけた方がいい。扉にだって鍵がかからないというのに』
あのひとはいつもと同じように、薄汚い教会で横になっていた私に、菓子を渡しながら苦笑いなさいました。
『この間、あんたが話してくれた妖精さんのお国に行きたいな……』
その日は、おとんにぶたれたのでしたっけ。
ほっぺたがじんじん、じんじん腫れあがっておりました。
『そんなにじろじろ眺めたって、あちきのツラぁ面白かねぇよ』
『いいや。君は美しい。そう、君の美しさは正に、楽園の住人に相応しい』
――楽園?
そのような場所、見当もつきません。
あのひとの暮らしているという大きなお屋敷を指しているのでしょうか。
よく分からないので生返事をいたしました。
『遠くに行きたいかい?』
『いきたい』
あのひとは急に真剣な瞳になって、私を覗き込みました。
『もしも君が望むなら、僕が遠くへ連れて行ってあげよう』
『妖精さんのお国へ?』
『そうではない。妖精なんてもの、いやしないんだ』
あそこはそんな場所じゃない、もしかしたら、私は犬畜生にも劣るおこないをしようとしているのかもしれぬ……と。さんざ逡巡なさっていらっしゃる。
私は心のうちで「意気地なしめ」と罵っておりました。
いいえ。
叫んだかもしれません。
ええ、短気なのです。
あらまあ、気づいていたって?
ふふふ、子どもの頃と同じにしないでくださいまし。
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