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〈第一章・33〉
子供が窓を開けたまま眠っていると、真夜中、どこからか妖精が訪れる。
見目の麗しい子供や、優秀な子供が狙われることが多いという。
妖精に気に入られた子供は、遠い遠い妖精の国にさらわれていく。
遠い妖精の国で、人間であることをやめて、一生〈幸せ〉に暮らしていくらしい。
子供が消えたと騒ぎになると面倒なので、妖精は、居なくなる子供の身代わりとして丸太を置いて、魔法を使い、ずっと子供が眠っているかのように細工をして――。
「聞いたことがあります」
姫桜が語るのを途中で遮り、お茶のおかわりを自分でついだ。
「残酷だから、あまり好きじゃないですね。連れて行かれた子供は、妖精の国に行って幸せに暮らすんじゃなくって――」
すっと、彼女は僕の言葉を遮る仕草をした。
「あのひとからそのおとぎ話を聞いてから、すっかり信じてしまって……。怖かったけれど、泥棒に入られるような財産は持っておりません。まあ、子供だったのです。とにかに憧れて、毎日窓を開けて眠っておりました」
「馬鹿な。ちゃんとオチまで聞いていたんでしょう?」
「連れて行かれた先で強制労働、一生、妖精の奴隷になるのでしょう? ええ、それでも、私は良かったのですよ」
姫桜はころころと笑って、昔語りを始めた。
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