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〈第一章・28〉

(悔しい。胡蝶蘭は僕なんか、ただの使い捨ての道具としか思っていないのに……)  堂々と咲く花びらから目を逸らせずに、強く唇を噛んだ。 深いため息をひとつ。  まだ頭が痛くて、痛くて、たまらない。 「ねえ、千秋。どうしたの? 紙巻に使うんだったらねぇ、乾燥室に干してある分がまだあるから、その籠に入るだけ摘んだらいいんじゃないかなぁ?」   牡丹に言われてようやく我にかえった。  ――これを?    この薔薇を摘んでもいいのか?  震える指先を大輪の薔薇に伸ばす。 「……つっ」  鋭い棘で指を刺してしまい、僅かに血が滲んだ。  かまいやしない。  そう思って花を手折ろうとすると、牡丹がハッと叫んだ。 「駄目!」 「え?」  彼女は慌てたように僕の指先を舐める。 「このくらい、なんともない。平気、痛くないよ、牡丹」 「うん。あのね、千秋。このお花は毎日、胡蝶蘭さまがお世話しているのよ。お水と血をあげているの。だから、お花に血がついたらいけないって思って」 「血を……?」  青い薔薇は血を養分にしているのか。  胡蝶蘭の血。あの、甘い、甘い……麻薬のような蜜。 「ははっ、本当におとぎ話みたいだ。ペットは飼い主に似るっていうけれど、まさか植物までなんてね」 「血が止まったわ。もう触ってもいいわよ。ねえ千秋、モドリの薬はねぇ、紙巻きを吸えば、頭痛が軽くなるの」 「へえ」  ただの煙草ではなかったのか。
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