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〈第一章・26〉

(最悪だ、クソったれ……。これは絶対、お仕置きとか折檻なんかじゃない、虐待だ)  胡蝶蘭は僕に、ユキの玉を飲ませて意識を奪ってから、何も考えられない人形にした。    そして好き放題に玩んで――。  くそ、考えたくない。    で。    いいだけ遊んで飽きたらモドリの玉を飲ませて、そのまま部屋を出て行ったのだ。  意識のない僕ををいたぶるのは、さぞかし楽しかったことだろう。  意識のある状態で繋がった時に、軽くわがままを言ったのがそれほど癪にさわったのか。  満足そうな吐息を漏らしていたくせに――。    「はあ……」    ぶるぶる、と首を振って気分をリセット。  いつまでもあの主を恨んでいたって、仕方ない。  牡丹のせつない気持ちが分かったから、いつもより優しくしてあげたい。    僕は胡蝶蘭を恨みながら黒衣に袖を通して、ドアを開けた。 * 「どこへ行く。また脱走する気か? 花しかないのは知れたろう」  門番の岩鉄に「開けて下さい」と言うと、苦々しい口調で切り捨てられた。 「もうそんな気はありませんよ。花畑に用があるんです。胡蝶蘭さまのため、紙巻に使う花を摘みに」  ああ、と、岩鉄は得心がいったように頷いて扉を開く。  ズズズズ、と重い音がした。 「ねー、あたしも行っていいでしょう?」 「牡丹さま。ええ、はい。すぐにお戻り下さいまし。生花のきつい香りは毒になります」 「へーきだってばぁ。岩鉄はすぐにそうやって、あたしにあれも駄目、これも駄目って言うんだから。嫌いよ。岩鉄なんて大っ嫌い」 「そ、それは……。申し訳ございません」  牡丹に舌を出され、大男はひと回り小さくなる。  意外な弱点を発見してしまった。  こいつは、こんなに優しい喋り方ができるのか。 「あはっ。嘘よぉ。ごめんねぇ、岩鉄。じゃあ、行ってくるー」  しおれた岩鉄を尻目に、牡丹は紅いドレスをはためかせて重厚な門をくぐった。  僕は岩鉄に睨まれているのを背中で感じつつ、揃って外に出る。
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