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第4話 陛下の気まぐれ

「……っ」  先程までの威勢のよさはどこへやら。急に静かになったと思えば、女が自分の方へ倒れこんできた。 「陛下!」 「大丈夫だ」  咄嗟に受け止めてしまったことに内心驚きつつ、すぐ傍から聞こえる焦りを含んだ声を制する。  そっと女の背へ腕を回し、仰向けの状態で体を支える。すると、妙にその頬は赤く苦しげに浅い呼吸をくり返していた。 「……っ、すごい熱だ」  脳裏に過った思考が導くまま、徐に空いている手で彼女の額に触れる。手のひらに感じる熱が、現状のすべてを物語っているように思えた。  女用心棒アメリ―。それは、一、二年程前から時折耳にする人物の名。  女でありながら用心棒などという職を選び、自ら命を危険にさらし生き続ける。  その噂を耳にしたのはほんの偶然だったが、彼女の名を聞くたび、本人に対し興味が湧いた。  今回、警備部隊が捕縛に向かう盗賊連中の中にアメリ―が居るかもしれない。  そんな確証も無い言葉が気になり、「何故陛下がそのような場所に!」と戸惑いを隠そうともしない皆と共にやってきたのは、とある廃墟だった。  そこは盗賊達の根城。無駄のない動きで、騎士達は次々と困惑し抵抗する盗賊を捕らえていく。  あっけなく縄をかけられる男達を尻目に、つい一つの影を探してしまう。 『……っ! 状況見てから喋れ!』  ただの噂に過ぎなかったとどこか寂しさを感じていた時、突如女の怒号が耳に届いた。 「へぇ、これは凄い……相当使い込んでるね」  すぐ傍から聞こえる口笛に意識が現実へ引き戻される。  顔を上げれば、直轄部隊のカイとオスカーの姿が見えた。  カイはアメリ―の武器を手に取り、彼女から遠ざけている。そしてオスカーは、それらを興味深そうに眺めていた。  どこか戸惑いと好奇心を含む二人の視線が、武器だけではなく、時折自分達へ向いているのは気のせいだろうか。 「カイさん。盗賊達の身柄はすべて拘束しました。あとは……そこに居る女だけです」 「そうか。捕縛用の縄は持って……」 「その必要は無い」  そんな時、報告のため外からやってきた騎士が上司であるカイに現状を報告する。  二人の会話を断ち切るように声を発し、そのままもう片方の腕を女の膝裏へ滑らせた。 (っ! 軽すぎる。ちゃんと食べているのか? こいつは)  彼女を横抱きにしたまま体勢を整え立ち上がると、想像より軽く細い身体に驚かされる。 「へ、陛下……あの、その女の拘束を……」 「必要ないと言っている。……あとは任せた」  くるりと出入口の方を向くと、カイ達以上に困惑に満ちた表情を浮かべる騎士と目が合った。  彼の言葉に軽く首をふり、アメリ―に負担がかからぬよう注意し歩き出す。 「おい、アメリ―に何する気だよ!」  すると、耳障りな声が聞こえ、足を止め舌打ちをしつつふり向く。  視線の先にいたのは、騎士フーゴのそばで、すでに拘束されている男。  怯えの消えぬ瞳で懸命にこちらを睨みつけているが、その様子に一片の恐怖すら感じられない。  手負いの獣が煩く喚く様を眺めれば、何故か苛立ちを感じた。心の底から湧き上がる感情のまま一睨みすると、こちらを見つめる瞳から瞬時に勇ましさは消え去る。 「…………」  こんな奴に構っている暇はないと、再び歩みを進める。  その途中、真っ赤に染まった頬が時折視界に映りこむ。 (女、用心棒……ねぇ)  己の口から零れる小さな笑い声。その理由に気づくのは、まだ先の話。 「あらら……ねぇ、カイ。いいの? あれ」 「良いわけが無いだろう」 「だよねぇ……だけど、陛下の瞳、キラキラしてたよ。まるで新しいオモチャを見つけた子供みたい」 「オスカー、言葉を慎め」 「はいはい」  部下達から向けられる困惑の視線に、彼は気づかぬままだった。
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