「アアッ……」 　皇帝陛下の寝室に、再び夜啼く鳥の声が響きました。 　その、澄んだ高い声に、皇帝陛下の体はみるみる力を取戻していきました。 　ナイチンゲールの全身を、くまなく、貪るように触れ、舌で弄ぶと、美しい声は、艶と甘さを増していきます。 　それまでの病が嘘のように、皇帝陛下はナイチンゲールを組み敷き、思うままに啼かせました。 　もっと奥へ、もっと深く。誘うように締め付け、快楽に顔を歪ませるナイチンゲールの姿に、ますます皇帝陛下は奮い立ち、求められるままに分け入っていきます。 　唇を重ねて、吐息を奪い合うと、鼓動が早鐘か太鼓のようにリズムを刻みます。 　名残惜しそうに唇を離すと、今度はナイチンゲールの高い嗚咽が響きました。 　ナイチンゲールと皇帝陛下は互いが互いを楽器のように、響きあい、求め合いました。 　そうして、営みが終わると、一糸まとわぬ姿になった二人は、番の二羽の鳥のように、あたためあうように抱き合って眠りました。 　夜が明けて、朝陽が差し込んでも、ナイチンゲールの姿は鳥に戻る事なく、皇帝陛下の腕の中にありました。情事の跡が、白いなめらかな肌のそこかしこに、花びらのように散っています。 　先に目覚めた皇帝陛下は、もう一度ナイチンゲールを抱きしめて、黄金色の髪に指を差し入れて、やさしく漉いてみました。 　皇帝陛下の手の感触に、ナイチンゲールが目をあけると、優しく微笑む皇帝陛下の姿がそこにはありました。それは、今まで見たことのないような、おだやかなものでした。 　夜が明けている事に気づいたナイチンゲールは、森へ帰らなければ、と、立ち上がりました。 　離れがたく、ナイチンゲールの長い髪に口付ける皇帝陛下に、ナイチンゲールは言いました。 「陛下、どうか、私が自由に森を、空を飛ぶことをお許しください、この世の全てを、心のままに見に行く事をお許しください、そうして、また、御殿へ、陛下の元で歌う事をお許しください」 　そうして、鳥の姿に戻ると、窓辺で最後にこう言いました。 「私は陛下の為だけに歌う鳥、陛下が私を求め続ける限り、私はまたここへ参ります」 　そうして、ナイチンゲールは陽の光につつまれる大空へと飛び立って行きました。鎖も、鳥籠もありませんが、不思議と、皇帝陛下に不安はありませんでした。 　すっかり元気になった皇帝陛下の元へ、もう陛下はお亡くなりになったに違いない、と、侍従達が寝室にやって来ると、そこには見違えるほど元気になった皇帝陛下の姿がありました。 「おはよう！」 　皇帝陛下は、ナイチンゲールを鳥籠に入れて閉じ込める事はできませんでした。しかし、皇帝陛下が命を全うし、もう一度死神がやってくるその時まで、ナイチンゲールは皇帝陛下に仕え、皇帝陛下も、ナイチンゲールをたいそう寵愛しました。 （終）