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歌声が聞こえる

 窓の外から、聞こえてきた歌声、それは、ナイチンゲールのものでした。  細く、遠く響く、美しい声。  ナイチンゲールの歌声は、病の皇帝陛下に力を与えました。青ざめた顔には赤みがさし、血の巡りがよくなっていくのが、自分でもわかりました。  死神もまた、ナイチンゲールの歌声に聞き入っているようです。 「お前が噂に聞くナイチンゲールか、確かに、なんと美しい歌声だろう、もっと私にも、その歌声を聞かせておくれ」  死神が言うと、窓辺の枝にとまった、ナイチンゲールは答えます。 「私の歌をお望みというのなら、その冠を下さい、剣も下さい」  ナイチンゲールに言われるがままに、死神は皇帝陛下から奪った宝物をナイチンゲールに渡しました。  人の姿をとり、窓から、皇帝陛下の寝所に現れたナイチンゲールは、死神から奪った宝物を手に、さらに歌いました。  それは、死の国の歌でした。  流れていく黄泉の河。彼岸に咲くという美しい花々。やすらいだ人たちが、永遠の眠りにつく、やすらぎの国。  死神は、死の国が恋しくなり、そのままふわふわと浮かび上がり、窓から出て行ってしまいました。  皇帝陛下の寝室には、ナイチンゲールが残されました。現れたナイチンゲールは、女官の衣装をまとい、まるで本当の人間の娘のように見えました。 「ナイチンゲール……戻ってきて、くれたのか」  皇帝陛下はナイチンゲールを抱きしめました。 「そなたのおかげで、私は救われた、ありがとう、感謝する」 「皇帝陛下、私は陛下の元へ戻って来たのではありません、皇帝陛下が歌を、音楽を望まれたから来たのです。私は、私の望む事をしただけです」 「そうか、しかし私が救われた事には違いない、ありがとう、ありがとう、この気持ちを、どうしてお前に報いたらいいのだろう」 「何もいりません、皇帝陛下は、始めて私の歌を聞いた時、涙を流してくださいました。それだけで充分なのです。あなたが望み、私が望んだから、私は今ここにおります、それだけではいけませんか?」  そう言うと、ナイチンゲールはそっと皇帝陛下にくちづけました。 「私は、御殿に住むことはできませんが、私の望む時に、皇帝陛下の元に来る事を許してくださるならば、お側においていただけますか?」
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