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歌声の虜

 翌朝、会議の後、皇帝陛下は早速、侍従を集めて、庭園に住むというナイチンゲールの事を知るものはいないか尋ねました。しかし、誰一人として、そんな鳥がいるという事すら知りません。 「自らの庭にいるという、庭園一番だというナイチンゲールを、その国の皇帝である自分が知らないなどと、おかしいではないか、なんとしても探しだし、私の前に連れて来い!」  皇帝陛下の命令は、何にも最優先です。侍従達は、自らの配下に、配下達は、さらにその部下達に、ナイチンゲールを知らないか、聞いて回ります。  そしてついに、台所の下働きの少女が、湖のほとりで、すばらしい歌声を聞いた事があると申し出ました。  仕事がつらい時や、悲しい事があった時に、湖のほとりに行くと、ナイチンゲールは少女の為に、やさしく歌を歌ってくれるのでした。  侍従達は、少女の案内で湖のほとりにやってきました。少女が呼ぶと、ナイチンゲールが姿を現しました。その、小さな灰色の鳥に、侍従達は少しがっかりしてしましました。少女が事情を説明すると、ナイチンゲールが歌い始めました。  細く、透き通った声は、森の端まで届くようです。伸びやかな旋律がやさしく侍従達を包み込むように響くと、今まで聞いたことのない、素晴らしい歌声に、侍従達はうっとりと聞き惚れました。  なんて素晴らしい歌声だろう、何故今まで知らなかったのか、侍従達は、口々にナイチンゲールを賛美しました。 「……いかがでしたでしょうか、もう一度、歌いましょうか?」  ナイチンゲールは、人の言葉を話しました。侍従達は、ナイチンゲールに、皇帝の為に、宮殿の宴に来て貰えないか尋ねました。  ナイチンゲールは、自分の歌は、森の中で聞いていただくのが一番よいと言った上で、こう言いました。 「皇帝陛下が、それをお望みでしたら」  宴に招かれたナイチンゲールは、皇帝陛下の前で歌いました。大きな広間の中央に、とまり木が置かれ、誰も彼もが、皇帝が、見守る中、ナイチンゲールは歌いました。  森の木々の風が渡っていく様や、しんと静かな月の夜を、聞く者達に思いおこさせるような、胸に染み入るような、美しい歌でした。  皇帝陛下は、その、美しい歌声に、一筋の涙を流しました。  しかし、皇帝である彼は、涙を流す様子を侍従達に見せるわけにはいきません。侍従達に気づかれないよう、その涙をぬぐいましたが、ナイチンゲールだけは、皇帝の流した涙に気が付きました。  なんて尊い、美しい涙なのかしら。ナイチンゲールは、そう思いました。  皇帝陛下は、侍従達同様、ナイチンゲールの歌のとりこになりました。そのすばらしい歌声に、何かほうびを送りたいと皇帝陛下はナイチンゲールを労いましたが、ナイチンゲールはそれを辞退しました。  どんな褒美よりも、皇帝の涙は価値のあるものだったからです。
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