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美しい声の正体

 シンチェン国、第八代皇帝、後に諡して、銀狼帝と呼ばれる、ジンレアン陛下の御代(みよ)の事。三代皇帝より整えていた御殿の庭園が完成し、世界中からその美しい庭の景観を求めて、多くの人々が訪れておりました。  庭には美しい花々だけでなく、湖や滝、陶器で出来た四阿(あずまや)があり、人々の目を大いに楽しませていました。その、美しい庭園は、とても広く、庭師ですら、全容を把握できないほどの規模のものでした。  深く、澄んだ湖も、大きな船で船遊びができるほど広く、森の木々からも、枝が、湖まで張りだすほどでした。  その、湖を臨む木の枝には、一羽のナイチンゲールが住んでおりました。  ナイチンゲールの美しい歌声もまた、その景観と同様に、人々を魅了し、庭園を訪れた人達は皆、口を揃えて、ナイチンゲールの歌声を讃えました。  それは、書物にも書かれ、広く世間の人々にも知るところとなりました。しかし、庭園の主である、皇帝陛下は、自分の御殿の庭園に、そのように人々に讃えられるほどの歌声をもつナイチンゲールが居る事を知りませんでした。  ある夜の事。皇帝陛下は後宮の一室で、(きさき)の一人とまぐわっておりました。  その妃は、艷やかな黒い髪を振り乱し、四つん這いになりながら、皇帝陛下に、後ろから激しく乳房を揉みしだかれ、首筋を這う舌に翻弄されるまま、けだもののように喘ぎ、力任せに蜜壺をかき混ぜられ、達してしまいました。しかし、陛下は、己の欲望を満たす為に、腰を振り続け、欲望を全て妃に浴びせかけてから、ようやく動きを止めました。  力尽きて横たわる妃を、皇帝陛下は冷ややかに見下ろしてから、並ぶようにして、その身を横たえました。  当代の後宮は、先代に比べて小規模ではありましたが、それでも十人以上の妃を持つことになります。皇帝陛下は精力絶倫の人で、日毎夜ごとに相手を変え、気まぐれに女官にお手を出す事もありました。しかし、その愛し方は誰に対しても、とても一方的で、女性を優しく慈しむというよりは、欲望をぶつけてくるような荒々しいものでした。  けれど、皇帝陛下は若い美丈夫で、閨の中だけでも、強く求められる事を、妃皆が望んでおりました。妃達は、こぞって皇帝陛下が自分の部屋を訪れるよう、美しく装い、工夫をこらして待つのでした。  その夜、妃が準備していたのは書物でした。外国の文字で書かれた書物を、妃は読むことはできませんでしたが、挿絵が美しく、見ているだけでも充分満足できるというものです。  皇帝の愛撫に翻弄されて、力を失った妃の横で、暇を持て余した陛下は、妃の用意していた本を徒然に眺めました。外国語でかかれた本でしたが、その国の言葉を、皇帝陛下は読むことができたので、読んでみると、その本は、この国の美しい庭を誉め讃えていました。  御殿の美しい庭園を自慢にしていた皇帝陛下は、うれしくなって本を読み進めていきました。そこには、花々や、陶器でできた四阿のすばらしさ以上に、美しい鳥の歌声についての賛美がありました。 『シンチェン国の皇帝陛下の御殿のお庭は、とても素晴らしいけれど、中でも最もすばらしいのは、ナイチンゲールの歌声である』  本には、そう書かれていましたが、皇帝陛下は、そんな鳥が庭園にいる事をちっとも知りませんでした。
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